シーン078:「おいしい話3」

お当番 : 赤石 マサエ

  これは以前どこかで書いたかもしれないのですが、 私は村上春樹さんの作品で描かれる何かを飲んだり食べたりするシーンが大好きです。 読んでいて、すごく食欲を刺激されます。食欲なんていうやわなものじゃないな。 脳も体も、それはそれは激しく支配されます。 皆さんには、例えば「この人の文章を読むと、どうしてもプールで泳ぎたくなってしまう」とか、 そういう具体的な作用を受けた経験、ないですか?

  村上さんの作品は、作品自体の好き嫌いにかかわらず、 飲食するシーンはどれも(翻訳作品は除く)好きです。 特に好きなのは『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』と『遠い太鼓』です。 前者は何と言っても「私」が計算の途中で摂るサンドイッチとコーヒーです。 二度目に読む時は、私もサンドイッチとコーヒーを作ってから読み始めました。 もし、このコラムを読んで、これから初めて『世界の終わり〜』を 読んでみようという方がいましたら、ぜひ「きゅうりの入っているサンドイッチ」と 「魔法瓶に入れたコーヒー」を用意して読み始める事をオススメします。 読むのを途中でやめるのはとても難しいし (私はとにかく読むのをやめられなかった。読んでみればわかります)、 でも「私」の計算が終わるまで、サンドイッチとコーヒーを舌が欲求し続けるので、 私には拷問のようでした。お酒が飲める年齢の方なら、インスタントでも良いので、 ちょっとしたパスタとワインも用意しておくと良いと思います。 後で欲しくなるかもしれません。こちらは常備してあったので、私はセーフでした。
  後者はギリシャ(?)の島での村上さんの生活を書いたものですが、 私はこれを読んでイカが食べられるようになったと言ってもいいくらいです。 魚介類が全般的にダメなんですが、特に、イカやタコは火が通っていても、 なかなか手が出ませんでした。でも、ここに出てくるイカのうまそうなこと! もう、 「あ〜、私もこんな港のある田舎町で、毎日うまいイカを食って、のんだくれて暮らしたい」 と思ってしまった程。魚介類苦手なのに。で、もちろん次に飲み屋に行った時は食べましたよ、イカ。 「はぁ〜っ。イカってうまいんだね」って思いました。

  世の中に村上春樹ファンは結構いると思うので、共感してくれる人がいるかも! というのはちょっと期待していました。・・・やっぱり!!やっぱりいたんです。 『少年カフカ』(『海辺のカフカ』の読者と村上さんとのメールのやりとりをまとめた一冊)の、 mail no.099に、このような内容のものがあり、それについて村上さんが答えた中に、 なんと村上さんの奥さんもそういう作用が出るとありました。 さらに、外国の読者にもよく言われるそうです。やっぱりねぇ。

  素晴らしい才能(技術?)ですよね。 読んでいるものを同じように飲み食いしたいという欲求をこんなに強く持たせる (私などは実際飲み食いしてしまう)程の文章力があるとは! ・・・だから売れるのか。 私なんて今回のこのコラム、 「ほかの作家の作品みたいに『わぁ、おいしそう!』って思うのとは、全く違うモノなんだ」 って事が書きたいのに、「あー、全っ然伝わってない・・・」と思っているとゆーのにッ!!

  まぁ、興味を持たれた方はご一読ください。 私の拙い文章の意味するところがわかると思いますので。


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