シーン209:「出会いと縁といくつかのまわり道」

お当番 : しんご


出会いは三年前の初秋、東京のとある小さな劇場(アトリエ)でのことでした。
今、思い返せば、ほとんど一目惚れでした。


2009年9月、どこかで情報を目にし、以前から気になっていた演劇ユニットの公演を 観に行きました。
それが、青☆組でした。 (現在は劇団として活動されております。)
作・演出の吉田小夏さんを中心に、繊細かつ濃厚に紡ぎ出されたその舞台は、 とても魅力的なものでした。
終演後、ロビーとは言えないほどの狭い空間の、その受付前の棚に、 過去の作品の上演台本たちが物販のために並べられていました。

その中のひとつが 『雨と猫といくつかの嘘』 でした。

その日観た公演がとても素敵であり、吉田小夏さんの戯曲に興味を抱き、 そしてそのタイトルそのものに心を惹かれた私は、即決で購入していました。
その作品は様々な演劇的アプローチを可能にするように感じられ、 何よりそこに描かれている世界観に魅了されてしまいました。

2010年が終わる頃、公演中止や不本意な形での公演が続いた嫌な流れを打破すべく、 第15回公演の候補台本にこの作品を挙げました。
とはいえ、その時は私自身が演出を担える状況になく、迷いながらの提案でした。
が、劇団員と話すうちに、自ら演出したい作品でありながらそれが出来ないことに 葛藤しつつも、それでも「この作品をシブパで上演したい」という想いが上回りました。
そこで、信頼する別の劇団員に演出を託し、次回上演作品として決定したのでした。

そんな折の2011年3月、あの東日本大震災が起こりました。
直接的な被害はなかったものの、劇団を取り巻く状況は一変しました。
劇団は同年6月に予定していた公演の中止を選択しました。

その後、劇団は無事に活動を再開し、3回の公演を重ねることが出来ました。
劇団シブパの上演作品の選定には不思議なくらいの縁やタイミングが介在するものであり、 一度候補に決定しながらもタイミングを逸したこの作品には、その間、 上演の機会が訪れませんでした。

2012年11月、第18回公演の候補台本の選定は難航の様相を呈していました。
いくつかの候補作品たちが、諸般の事情によって挙がっては消えていきました。
そんな時、「この作品をシブパで上演したい」と強く抱いていた作品を、 新入団員も加わった劇団員たちに改めて提案しました。
演出は私にやらせてほしいという願いとともに。

そして2013年6月、第18回公演として幕を開けました。


劇団シブパ第18回公演 『雨と猫といくつかの嘘』 にご来場いただき、 誠にありがとうございました。
最後に見せた風太郎の笑顔が、自信を失くし立ちすくみそうな人の、 その背中にそっと触れるようなほんのささやかな力になれたら、 こんなに嬉しいことはありません。


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