シーン296:「少年の進んだ道は」

お当番 : 沢村 希利子


 その本は地域の図書館などから集められた、廃棄予定の本の山の中に埋もれていました。
 処分される前にたまたま目に留まり、なぜかとても気持ちが惹かれて、持ち帰らせて頂いたものです。
 普段全く読まないジャンルの本が私を呼んだのだと感じました。


 ゲイリー・ポールセン著 「少年は戦場へ旅立った」(2005年あすなろ書房)


 南北戦争を題材にした児童書です。
 1861年、日本はまだ幕末の頃。
 銃で戦争をするということがどういうことか、人々はまだよく理解できていませんでした。
 町ではパレードが行われ、兵士は盛大に戦地へと送り出されました。
 誰ひとりとして、自分が死ぬなどとは考えてもいませんでした。
 そんなお祭りムードの中、15才のチャーリーは年齢を偽り北軍ミネソタ義勇軍に志願します。
 けれど彼を待ち受けていた現実は、壮絶なものでした。

 この作品には、戦争により大切な人を失ったり家族と再会したりというような、涙や感動の場面は一切存在しません。
 戦場でどのように人が死んでいくのか。
 死に対する少年の恐怖は、次第に彼を狂気に飲み込み、蝕んでいきます。
 やがてチャーリーの心は生き残るために敵兵を殺す「兵士の心」へと変わっていきました。
 人の体が、心が、命がいとも簡単に壊れていくさまが淡々と、実に淡々と描かれています。
 この本が児童向けの本であることに驚きすら感じるほどに。

 この物語は実在した人物を描いた真実の物語です。
 戦争が終わり、故郷に帰ってきたチャーリーが川辺で思いを馳せている場面で物語自体は幕を閉じます。
 しかし、戦争により心身ともに傷を負った彼はその後自ら命を絶ちました。
 23才でした。

 この作品は戦争反対を声高に叫んでいるものではありません。
 ページ数も少なく字も大きく、文章も平坦です。
 だからこそ心が深くえぐられるように感じました。

 生命の尊厳が叫ばれるようになったのはいつからなのでしょう。
 現在でも戦争は絶えません。


back          next